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「好きなことのために働く」――レゲエに魅せられた男の人生

★向井将綱さん(45歳/大阪市東成区・ジャーク☆マン経営)

大阪市・東成区。地下鉄緑橋駅からほど近い場所にジャマイカ料理専門店「ジャーク☆マン」はある。この場所で9年間店に立ち続けている男が、向井将綱さんだ。しかし、飲食店オーナーだけが向井さんの仕事ではない。「MAJESTY」というグループでMOONYという名のもとレゲエのサウンドマンを務めるという二つの顔をもっているのだ。音楽活動の大半は、店が終わった後で夜な夜な始まるという向井さん。一体、その原動力はどこからくるのだろうか。

 

◆レゲエを軸に人生が動き出す

1960年代後半にジャマイカで誕生したレゲエ。

「レベルミュージック(反抗の音楽)」とも言われ、社会や政治への批判や反抗を主題とした曲は葛藤を抱えた多くの人の心を、今もなお動かしている。

そんなレゲエに出会って人生を変えられた人がいる。20歳の頃の向井さんだ。

 

「今となっては何を聴いたのか忘れちゃったんだけど、当時は曲のつくりに衝撃を受けて『俺もこの世界で生きたい』って思ったんだよ」。

 

そして、サウンドクルー「MAJESTY」を結成したが、音楽を生業にするのは33歳の頃に諦めた。

 

「お金をもらうこと=自分がやりたいことをときには我慢しないといけないというイメージがあったから。自分よりも人を優先することが仕事だと思ったときに『好きに生きたいから自分には向いてないな』って思ったんだよね」と、タバコをくゆらせながらはにかむ。

CDもリリースしている。

ターニングポイントが訪れたのは30歳の頃。

色々な出来事が重なり、単身で東京から大阪に転居することを決めたのだ。大阪を選んだのは「レゲエ激戦区」として人気のエリアだったから。

「生活していくためにはとにかく働き口を見つけないと生きていけなかったんだけど、そううまくはいかなかったなあ」と、当時を振り返る。標準語と関西弁。言葉の違いからどこか‟よそ者扱い“されている感じを受けた。

 

「おまけに30歳無職でしょ。怪しまれるのも仕方ないよ(笑)」。

 

そして、日雇いの仕事をいくつか経験する中で「働き口は自分で何とかするしかない」と決意。34歳の頃だった。

 

◆挫折、希望の道へ

2006年、奈良県のとある施設の駐車場の一角を借りて、現在の店の前身となる「ジャーク☆マン」をオープン。「やっぱりジャマイカが好きだし、ジャークチキンはこれからくるんじゃないかと思って」と始めたものの、資金繰りがうまくいかずに約1年で閉店。その後は音楽活動をする傍らで緑橋駅の地下にあるライブハウス「戦国大統領」でジャークチキンを売る日々を送った。

「このときは小遣い稼ぎ感覚だったね。レゲエ中心の生活のためにお金を稼いで、そのお金はMAJESTYに消えていってという感じ。でも、好きなことだったから辛いと思ったことは一度もないよ」と、まっすぐな眼差しで答える。

当時を振り返る姿はどこか哀愁漂う。

そんな生活を続けているときに再び転機は訪れた。ライブハウスのオーナーから「店を持ったら?」と声をかけられたのだ。運よく空き店舗が見つかり、2010年に誕生したのが現在の「ジャーク☆マン」だ。

ひときわ目立つ黄色の外観が目印だ。

 

◆好きだから、妥協はしない

定休日は月曜のみ。それ以外はずっと店に立ち続けている。名物のジャークチキンはドラム缶オーブンで焼くことにこだわるため、暑い夏の日も寒い冬の日も、外で焼く。

 

「県外から足を運んでくれるお客さんも多いし、ジャマイカ人が来ることもある。それに、9年間続けることができたのは周りの人たちのおかげ。その人たちのためにも、そう簡単に休めないよね」。

オーダー後、一つひとつ焼き上げる。

「本場は火を通しすぎるから」と、日本人の口に合う食感にするため焼き加減に注意する。

「ジャーク☆マン」の料理には、出来あいのものは一切使用しないのがモットーだ。

ジャークチキンセット(980円)。ライムを絞ったり、ケチャップをかけたりと味の変化も楽しめる。

ジャークチキン入りオムライス(780円)は、とろりとした卵がたまらない。

あいがけカレー(1280円)も絶品だ。

「楽をするならその選択もアリだけど、楽をしたくて店をやってるわけじゃないから。自分で忙しくしてるって言われたらそうなんだけど(笑)」と話す向井さんは、もちろん「MAJESTY」の活動も手を抜かない。「イベントをやるにもお金はかかるし、正直言って儲からない!」と笑い飛ばすものの、ずっと二足の草鞋を履いていられるのは何故なのか。

 

「若い頃は働くことにあまりいいイメージがなかったけど、今は周りの人に『働かせてもらっている』という感覚が大きい。『おいしかったです』と言われるとうれしいしね。で、店が終わったら音楽をやる。お客さんの笑顔を見るのも好きだし、音楽も好きだし、そのために毎日働いているって感じかな」。

「長生きしてもっとたくさんの曲に出会いたいね」と、向井さん。

向井さんをつき動かすもの――それは、「好き」というたった一つの原動力だった。

 

ジャーク☆マン

住所/大阪市東成区中本1-10-23

電話/06-6224-3173

営業時間/11:30~13:30、18:00~21:30

定休/月曜

交通アクセス/地下鉄中央線・今里筋線「緑橋駅」2番出口を中央大通り沿いに西へ徒歩約2分

(取材・構成/内川美彩)