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「社員も派遣も分け隔てなく。 でないと仕事は楽しくやれません。」

★酒専門店「鍵や」オーナー・鍵本順司さん(大阪府泉大津市)

鍵本順司さんは、いわゆる「酒屋のオヤジ」。といっても、帆前掛け姿でボールペンを耳の上に差したり、ガシャガシャとビールケースを運ぶ気ぜわしい姿はありません。自社でネット通販のシステムを構築し、蔵元と低温倉庫のネットワークにより全国の銘酒を販売。今時のスマートな酒屋事情を物語っています。とはいえ、実店舗あってこその信用。元気で明るい女性スタッフとともに、年商2億円を支えています。

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◆女性スタッフで年商2億円超え

大阪府泉大津市。大阪と和歌山を結ぶ国道26号線にほど近い場所に「鍵や」の看板があります。休みの日にもなると、車でサッと乗りつけてお気に入りの純米酒や焼酎などを買っていく紳士淑女が入れ代わり立ち代わり。JR和泉府中駅からも徒歩圏ということもあり、最近では関西空港を利用する外国人観光客の姿もみられるようになりました。

純粋な日本酒ファンが、噂を聞きつけてさりげなく集まる酒専門店。単にアルコール好きというのではなく、いいお酒をいい環境できちんと味わいたいというニーズを満たしています。今時の酒屋は昔と大違い。酔っぱらいが店の前でたむろしたりワンカップをひっかけているような昭和な風景は、ここにはありません。

一歩店内に足を踏み入れると、名だたる銘酒が棚や冷蔵庫にぎっしり。まるでワインセラーを思わせる商品陳列。その種類はざっと400種類以上。巷で人気の焼酎や、女子ウケしそうなフルーティーなリキュール、ここでしか手に入らないという幻の銘酒、さらには世界最高峰といわれる35万円もする超高級純米酒など、圧倒的な数と種類を誇っています。

何より、元気で笑顔いっぱいの女性スタッフが印象的。この日も、週末を飲み明かすために20代の男女グループが楽しそうに日本酒を探しながら、決して押しつけではない女性スタッフのアドバイスやおすすめを聞き入る微笑ましい場面も。知識も豊富で接客上手。まぎれもなく、店頭での大きな戦力になっています。

◆リーマンショックよりオヤジショック

こうした有能な女性スタッフを束ねているのが、和歌山県出身の47歳。この場所で開業後すでに11年。全国的に知られる酒専門店として成長させました。蔵元とのパイプも強固で、ほかでは手に入りづらい希少な日本酒を仕入れられるようにもなりました。アウトソーシングによって神戸に低温倉庫をキープして品質を徹底管理し、確固たる流通システムを確立しているのが大きな強みです。

和歌山市内の有名な酒専門店の長男として生まれ、高校卒業後2年間のサラリーマン生活を送り、20歳を機に後継ぎ候補に。それまでの2年間はワインを扱う会社だったため、酒屋の後を継ぐというのは必然だったのでしょう。「いやあ、もう人の言うことを全然聞かん人間でしたわ(笑)」。え、誰が?「ワシがですやん(笑)!」。笑う時は豪快に笑い、話す時は野太い声でしっかり話す男っぽさ。笑ったところが、元大阪市長&元大阪府知事にどことなく似ているような。「初めて言われましたわ(笑)」。

25歳でソムリエの資格を取得したり、卸しとの関係をさらに強化するため全国の蔵元を回って顔を覚えてもらったり。2代目オーナーの道は着々かと思われた矢先に、リーマンショック。それだけならまだしも、「親父が株に手を出して大損害。もう何をすんねんって感じでした。それを責めたらお前はクビじゃ!って逆ギレされてしまったんです(笑)」。親子の絆、もはやこれまで。リーマンショックの思わぬ余波を受けて、住み慣れた紀州の地を離れることになったのです。

◆極貧生活で得たものは数知れず                                         

このタイミングでまさかの独立開業。「結局、酒を売ることしかできなかったんです。やらないと仕方ない状況でした」。8月に和歌山を飛び出してから4カ月。2009年12月6日、現在の場所で酒専門店をオープンさせました。

いざ店をオープンしたものの、毎日が休日状態。「独立を祝ってくれた蔵元から届いた胡蝶蘭に、水をやるだけの毎日でした(笑)」。1日の利益がたった600円という日もありました。そんな時の食事は、インスタントラーメンとレトルトのごはんだけ。「湯を入れてじっくり40分待ちました(笑)」。そんなことしたらふやけてしまいますが。「その分ボリュームも増えて空腹を満たせたんです(笑)」。そんな食事ばかりしていたらやせてしまったのでは?「ところがガツガツ食べることが唯一の楽しみだったので、逆にめっちゃ太りました(笑)」。

寝る場所もまともになかった極貧生活。持て余した時間を利用してパソコン操作を覚えたり、会計経理のノウハウを独学で取り組んだり。そんな努力もあって2年目には何とか軌道に。目の前の現状を悲観せず、お客さんがついてくれるまでは時間がかかるものだという冷静な判断が正しかったのかも知れません。当時82キロあった体重も62キロにまで回復しました。

取引先である蔵元からの応援も力になりました。開業当初、店頭POPや事務用品などを用意してくれた蔵元もありました。「うちも同じだったよ、人生なんて何とかなるよ、といった励ましの言葉もずっしり心に沁みました」。和歌山にいた時、地道に蔵元回りをやっていて本当によかった、と。

◆実店舗を構える意味

蔵元の力強いバックアップと、スマートな倉庫管理。そして時間を持て余して接していたパソコンスキルが、ネット通販実現につながりました。今では、ネット通販の売り上げが店頭売り上げとほぼ同等にまで急成長。「いくらネットで売れても、やっぱり実店舗がないと。それだけでも信用につながるんです」。

店舗の接客はもちろん、スタッフのほとんどが女性。注文を受けて倉庫へ発送データを送信するオペレータースタッフ、在庫・品質管理を行うデータ解析スタッフ、税理事務所とのデータ通信による会計を行うスタッフや商品配送スタッフのほか、フォトデザイナーといわれる職種スタッフも。一体どんな仕事かと思いきや、「ネット通販のためのWEBサイトのデザインと管理が中心ですが、商品そのものの撮影もやっています」。事務所にはDTPのためのパソコンをはじめ、カメラや照明など撮影機材一式も揃っています。

みなさん自由でのびのびと仕事をしているようにみえます。「個々に責任は伴うものの、スタッフみんなが楽しく仕事ができる職場でないと意味がありません。また、社員だからとか派遣だからとか、待遇面で分け隔てがあってもいけません。オープン会計にしておくことも社員間の信頼構築に必要不可欠です。もうお金のことで苦労したくありませんから(笑)」。

大阪市内に2号店を出すことは視野に入れていますが、リアルに飲めるバーや居酒屋とかへの興味はゼロ。親子関係も今では完全修復。「いつまでもいがみ合ってたらアホでしょ(笑)」。それどころか、6年前には父親がオーナーだった和歌山の店の株を100%を取得し、正式に代表取締役社長に就任。一時は2億円を切る状態にまで落ち込んでいた売り上げも、現在では3億円にまで上昇させました。

驚異的なV字回復。もうオヤジショックが起きることはないでしょう。

(取材・構成/池田厚司)