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「確かにしんどい。でもそれさえ乗り越えたら、もう怖いものはないですよ」。

★松本英之さん(大阪府堺市・42歳/「麺屋 うさぎ」オーナー」)

今時のウサギは、月で餅をつくのではなく、サーフィンがお気に入り。そんなファンタジックで女子ウケしそうなシチュエーションが、店のシンボルです。大阪府堺市に拠点を置く、煮干しをベースにしたとんこつ系ラーメン。つくっていたのは、サーフィン大好きのうさぎ年オーナー。ラーメンをつくってお客様の喜ぶ顔が見たい、ちょっとやんちゃなウサギなのです。

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◆うさぎ印の赤いキッチンカー

南海電車・堺東駅にほど近い堺市役所前の市民交流広場は、毎週木曜日になるとグルメな人たちでにぎわっています。大阪の美味しいもので盛り上がろうと去年スタートした「Osaka Food Meeting」。地元堺のうまいもんが出展するイベントに、うさぎの真っ赤なキッチンカーもありました。

ボディ側面には「FOOD TRUCK USAGI」の文字。ハンバーガーやスイーツ、カレーなどに混じって、ひときわ存在感のある煮干しラーメン。もちろん、あのサーファーうさぎも健在です。

現在2店舗プラスキッチンカー。1号店は、自身の誕生日にオープン。「1日1組のお客さんしかこなかった日もありました」。じゃあ堺東駅に近い通りに面した2号店は?「どんな店を出してもつぶれるという悪評高い場所でした(笑)」。いずれもうさぎさんの昔話。ピーク時には、行列のできる繁盛店としてにぎわっています。「いや~、行列ができるというのはスタッフの段取りが悪いからなんですけどね(笑)」。自信の表れなのか、はたまた照れなのか。ここへたどりつくまでは、決してぴょんぴょん跳ねてばかりではありませんでした。

 

不登校生徒に告ぐ

中高一貫ヤンキー。バリバリの走り屋。中学時代は度肝を抜く個性的なヘアスタイル。「リーゼントじゃないんですよ。なんというか、髪の毛全体を逆立てたような(笑)」。説明されても想像のしようがない中学生らしからぬ風貌で、地元で異彩を放っていました。「学校へはちゃんと行ってましたよ。友達と会うのが楽しかったですから」。当時は、学校からの呼び出しにも応じない不登校生徒がたくさんいて、そんな生徒を学校へ連れてくる特技もありました。「おかげで先生も喜んでくれてました(笑)」。合法だったと信じるしかない、不登校生徒救済対策。一体どんな方法で引っ張り出してくるのかは、もはや想像するしかありませんが。

ピザ店やラーメン店、新聞配達など、アルバイト経験は多々。阪神大震災発生直後は、ガレキや倒壊家屋の整理や廃棄などの作業も体験。交通が寸断されていたせいで通勤ができず、派遣会社のオフィスで何日も泊まり込みした経験も。働くことは苦ではなかった?「めっちゃ楽しかったです」。至って勤勉なうさぎさん、一番印象に残っているのは引っ越し会社の派遣でした。

 

必殺熱中症治療法とは

仕事は想像以上に過酷でした。家から家へ、単に荷物を運ぶだけではありませんでした。構造上マンション11階の部屋まで荷物が入らず、ロープを継ぎ足すなどして決死の搬入を試みたことがありました。「命綱なしですよ(笑)」。

作業中、危うく熱中症になりかけてお客さんのトイレを借りた時に、排水用の水をがぶ飲みしたこともありました。「体温が少しずつ上昇してくると、自分でもわかるんですよ。あ、そろそろ体ヤバいなって(笑)」。

突然、他府県への単身赴任を言い渡されることもありました。「いつからですか?うん、明日から。いつまでですか?それはわからん。みたいな(笑)」。いつ戻ってこられるかわからない、理不尽な無期限単身赴任でした。数え上げたらキリがないほどブラックすぎる日々。「話せばまだまだありますけどね(笑)」。いやもうこのへんで。

それでも、やめようと思ったことはありませんでした。ひとことで言うと職人気質。「入った荷物は必ず出せる、という自信がありました。仕事のスキルが上がってくるのが楽しかったんです」。

 

◆誰からも愛される強運の持ち主

トラックで全国を走り回っていたあのころ。いくら手慣れた仕事とはいえ、疲労はつきまといます。そんな時、空腹を満たしてくれたのが全国のご当地ラーメンでした。「自分の手で美味いラーメンをつくりたいと思うようになってきたんです」。根っからのラーメン好き、迷いはありませんでした。有名フランチャイズラーメン店で修業しながら、さまざまな味を自身の体に染み込ませました。

完成したうさぎの煮干しラーメン。1,000円という価格はラーメンにしてはやや割高な感はありますが、食材をすべて国産にこだわったからこその自信です。2店舗ともスタッフにまかせられるようになり、ウサギ印のキッチンカーもあちこちのグルメイベントで活躍中です。過去の過酷なアルバイトで得たものは?「たくさんありすぎます(笑)。なにしろあんな仕事でしたからね、今はどんなしんどいことに直面しても耐えられます。やっぱりこれが一番です」。

札付きのヤンキーが、今や性格も丸くなり人気店のオーナーに。可愛らしいうさぎマークとのギャップはややありますが「誰からも愛される強運の持ち主」と解説されていた、うさぎ年の性格判断は当たっていました。

 

(取材・構成/池田厚司)