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「お店に花を。人に笑顔を。幸せをたくさん届けたい」。

覺道英理子さん(ショップ「kukka」フラワーデザイナー)

くらしを彩り、季節を弾ませ、心を潤す。いつの時代も花は人々を魅了し、この世で愛されてきました。そんな自然の美しい贈り物を、あらゆるシチュエーションに合わせて演出し、生きるための力や人を愛する勇気を与えてくれるのが、フラワーアレジメントの世界。豊かな感性とデザインセンスを武器に、クリエイティビティな世界観を醸し出してゆく若手フラワーデザイナーは、笑顔を届ける幸せの使者でもあります。

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グリーンを巧みに取り込む手法

とある金曜日の朝。大阪市内のとあるアパレルブティックに、いくつもの花が届きました。英国センス漂うトラディショナルなウェアやアクセサリー・雑貨にまじって、しとやかに目覚める花たち。あじさいを中心に、スモークツリーやスターチスなどもラインナップ。「季節は夏が始まったばかりですが、お店の商品はそろそろ秋物に入ります。そのあたりのバランスを考えて、ややシックなイメージにコーディネイトしました」。

まさにイングリッシュ・テイスト。決して華美ではなく、周囲に媚びることもなく。よくみると、随所にグリーンが取り入れられています。「自宅周辺の山々や緑に刺激されて、作品には積極的に取り込んでいます」。そんな独自の作風はとても自然で、温かみがあります。

2週間に1度の納品。お店のスタッフも「花はその人のセンスが全面に出る世界。毎回打ち合わせをして次回の花を決めるんですが、いつもイメージ通りに装飾してくれています」と評価してくれました。

◆日常に黙殺され「このままでいいのかな」

高校卒業後、花に関する仕事に就きたくて花屋さんへ。「なぜかと聞かれても、ほかにやりたいことがなかったんです(笑)」。いやいやそんなことはないでしょう。家族のみんな花が好きで、その証拠に華道の経験もあるくらいなんですから。仕事をするなら花の仕事をと、強く心に決めていた結果に違いありません。

最初は店頭で花を販売する仕事でしたが、次第に「自分で花をデザインしたくなってきたんです」。そして2度目の転職で出会った大手フラワーショップで、その才能が開花します。自分でデザインしたものが、現場で命を吹き込まれた花たちに立ち会える醍醐味。まるで花たちが、ありがとうと言ってくれているようで。何にも代え難い大きな喜びでした。

とはいえ、催事に花はつきものだけに年中多忙。大型商業施設や展示会などの現場では、設営のために真夜中の仕事もしょっちゅう。疲労も蓄積され、「このまま続けていくのは難しいと感じました。若いうちはまだ大丈夫なんでしょうが」。デザインだけでなく、ショップマネージャーやオープニングスタッフなども歴任。記念すべき勤続10周年が目前に迫っていたものの、そんな感傷にひたる余裕もなく仕事も責任も増える一方でした。「本当にこのままでいいのかな」。一度感じたジレンマは、そう簡単に拭い去ることはできませんでした。

チャンスはある日突然

そんなころ、転機が突然やってきます。会社とは別のところから仕事の依頼があったのです。写真スタジオのホームページ用の撮影。華やかなブライダル系がメインだったため、シチュエーションに合った花で演出すべく、フラワーデザイナーが必要でした。会社勤めの身ではありましたが、たまたま土日だったため会社にも迷惑はかからない。「もちろん即決でした(笑)。こんな経験は今の会社ではできなかったし、自分にとって大きなチャンスだと思いましたから」。迷ったら、やる。後悔しないためのポリシーは、どんな局面でも共通です。

兵庫県のレジャー施設やスタジオなどで、まる2日ブライダルの撮影。モデルやスタイリスト、カメラマンなど大勢のスタッフにまじって、フラワーデザイナーの存在もありました。撮影点数が多かったため、「余裕なんてまったくありませんでした(笑)」。今まで経験したことのない、アグレッシブな現場。多くのクリエイターたちとの出会い。この時の経験が、フリーでやっていこうというきっかけになりました。

その結果、2014年に退社。会社や得意先からもエールを送られ、翌年にフリーのフラワーデザイナーとして、新たな一歩を踏み出すことになったのです。

人々や世界を笑顔にしたい

独立から3年。「コンスタントに仕事をいただけるようにはなりましたが、まだまだ(笑)」というわけで、2足の草鞋を履くべく人材派遣会社に登録し現在も継続中。以前いた会社からの仕事依頼もありましたが、「いっそのこと、花と無関係な仕事のほうがいいと思って。どの仕事も、ちょっとした社会見学みたいで楽しいですよ(笑)」。見かけによらず何をやるにも意志が強く、ブレない性格が印象的です。

深夜のスーパーの棚卸や倉庫での作業、一般事務などを多数経験。現在はピアノなどの大型荷物の運搬を扱う会社に週3回勤務し、伝票の入力作業などを行っています。単に割り切って仕事をこなしているかと思いきや、「職場で知り合った人から、逆にブーケなど花の仕事をいだたけたこともあるんです(笑)」。頑張っていれば、こんなラッキーなこともあるという好例です。

夢は、自分のアトリエを持つこと。目指すは、ベルギーの巨匠ダニエル・オスト。「そこに人が集まって、自分の作品を見てもらえたらいいなと思っています」。何かと暗いニュースが続く世の中ですが、花だけは別格。フラワーデザイナーの手によって、より多くの人々に笑顔が広がりますように。

 

(取材・構成/池田厚司)